あらすじ
太宰治の代表作で初版が1948年の「人間失格」
構成としては幼少時代の1部と中学時代から東京の高校へ行き、心中事件を起こすまでの2部。ひも生活や結婚、アルコール・薬物依存や妻が犯されるなど様々な波乱万丈を経ての自殺未遂、人間失格を自覚するまでの過程を描いた3部が手記(自分で残したメモ)として書かれた小説です。
ちなみに人間失格は太宰治の人生をなぞった実話に近い内容になっています。太宰治は過去に自殺未遂や心中事件を起こし、薬物依存なども周りに知られていたようで芥川賞の候補に挙がった際に選考委員の川端康成に「作者の生活に問題があり、才能はあるが作品がよくない。」のようなことを言われています。(ちなみにこの評価に対して「刺す。そうも思った。大悪党だと思った。」と逆切れしています。芥川賞が欲しい理由も芥川龍之介を敬愛していたこともあるが、賞金の100万円が欲しいのが大きかったらしいです。)
感想
本作は人間の弱さと醜さを美しく表現したいという想いを感じました。
作中で主人公の「葉蔵」はお化けの絵と呼んでいたゴッホの絵に感動する場面があります。「美しいと感じたものを、そのまま美しく表現しようと努力する甘さ、おろかしさ。(中略)醜いものに嘔吐をもよおしながらも、それに対する興味を隠さず、表現の喜びにひたっている」という文があります。これは太宰治の考え方、人間失格で表現しようとしたことそのものではないでしょうか?
本作は葉蔵が共感できるような悩みや考え方を抱えていますが、それを引きずったまま大人になりそれにより転落していく人生を送ります。しかしその中でも幸せや平穏を感じている日々があります。そんな悲劇の中にありながらの儚く美しい日常を描いたのが人間失格だと感じました。
精神病院から退院し、東北の温泉地で療養生活を行う様子で締めくくられます。「いまは自分に幸福も不幸もありません。」と語っていますが、罪悪感で地獄の思いを抱えていた彼が今は幸福でも不幸でもない所謂普通の生活を送れるようになったというのは幸せなのではないでしょうか?人間失格となることで初めて人間らしく生きることができたのではないでしょうか?そう考えると本作はコメ(喜劇)ととらえることが出来るかもしれません。
作中に登場した本や読みたい本のメモ
罪と罰 ドストエフスキー
父 太宰治
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